昼過ぎが言う 影を飲みたい!
月は言う 飲みたいのは星の輝き
澄みきった泉は唇をもとめ
風がもとめるのはため息
匂い 笑い 新しい歌
これがぼくの飲みたいものだ
月だとかユリの花だとか死んだ愛などから自由な歌だ
あすともなれば一つの歌が未来の静かな水面をゆさぶり
そのさざ波とぬかるみを希望でふくらますだろう
光り輝いておちついて思想に満ちた一つの歌悲しみや苦しみや
まぼろしにまだよごれていない一つの歌
叙情的な肉体なしに笑い声で静寂を満たす歌だ
(未知のものへと放たれた めくらのハトの一群だ)
もろもろの物 もろもろの風その中心にせまる歌だ
とこしえの心の喜びに最後にはやすらう歌だ
(長谷川四郎 訳)
作者
フェデリコ・ガルシア・ロルカ
1898 - 1936 スペイン・グラナダ生まれ、詩人、劇作家。幼い頃から教会で聞いた話を演劇に仕立てるなど、音楽や詩劇の才能を発揮。彼の詩は音楽性に富み、出版もされないうちから人づてに広まり愛唱されていたという。詩のみならず絵や音楽にも優れた才能をもち、ダリとも親交が深かった。しかしリベラルな作品と言動のため、スペイン内戦の際にファランヘ党員によって銃殺され、フランコ政権で作品は発禁となった。
詩のソムリエより
新しい響きと耽美なイメージが広がる歌!80年以上も前に書かれたけれど、独特の言葉選びやリズムは新鮮で古びません。30代で内戦に巻き込まれ命を散らした彼ですが、その作品は不滅だとしみじみ思う詩です。ロルカの詩は、その流れるような音楽性が特徴。月夜に声に出して読んでみたい。