こんにちは。詩のソムリエ 渡邊めぐみです。
新型コロナウイルス蔓延から、早1年。さまざまなものがオンライン化し便利になった一方で、朝から晩まで画面を見続け、五感がすり減ってしまったようにも思います。
そんなときこそ、詩の出番!
イベントタイトルの「りーりーりるりるりっふっふ」は、詩人・草野心平が詠んだかえるの鳴き声。眠っていた感性をゆりおこし、冬眠からさめたかえるのように世界と出会いなおしたとき、どんなことばがわきあがってくるのでしょうか?心にいのちが吹きかえすでしょうか?
本質を追究する年齢をこえた対話の場「意味の学校」主催の山口覚(やまぐち・さとる)さんと一緒に、まる一日を詩人としてすごすワークショップを行いました。笑い声がたえず行きかいクリエイティビティが花ひらく様子をレポートします。「誰でも春の詩がつくれるフォーマット」も公開!
海辺の旅館で、心とからだをほぐす
場所は、福岡県福津市の津屋崎で旅館としてつかわれていた築100年を超える「玉乃井」。2階の窓からは美しい海と地平線が一望でき、ゆっくりとした時間が流れています。
そんな玉乃井に集まったのは、生後9ヶ月〜70代までの15名!まずは体をほぐしてから、「春らしいと感じるひらがな」をシェア。
「け」…小川で小さい魚がひゅっと動いた感じ。
「ふ」…まぁるい感じ。風がふきぬける。桜の木の感じ。
「ん」…芽がでるときのふんばりの音。
「なるほど〜」という声があちこちであがります。そしてパステルや木炭、クレパスなどを手に、選んだひらがなを描きます。黙々と楽しそうに手を動かすみなさん。すばらしい作品がたくさん生まれました!
“詩人”という拡張子を身につける
ふだんの喧騒と多忙のなかでかたまった心がほぐれたところで、いきなり表現に行くのではなく、「鑑賞」を通して詩とはなにかを考えます。
百田宗治「どこかで春が」
どこかで「春」が生まれてる、
どこかで水がながれ出す。どこかでひばりがないている、
どこかで芽の出る音がする。山の三月東風(こち)ふいて
どこかで「春」が生まれてる。
参加者さんからは、春が「来る」ではなくて「生まれてる」というのがおもしろいね、という声や「芽がでる音」って?という声も。
「芽がでる音」や「春が生まれてる」のを見聞きすることは不可能です。
でも、目に見えないものを見、聞こえないものを聞くのが詩人のふるまい。
今日は、ふだん見えないものや聞こえないものも聞いてことばにしてみましょうという話をしました。
また、オノマトペがおもしろい詩(室生犀星「桜と雲雀」)も鑑賞し、見つけたものを自由に擬音語・擬態語にしてみようという話も。
「詩人」という拡張子をつけたら、世界の見え方も変わるかもしれません!
詩人になって、春を探しに
お昼を食べたら、「春を見つけに」お散歩へ。
海辺で解散し、はだしになって海につかる人も、ヤドカリを見守る人も、松林を散策する人も。小1時間、じっくり春を感じます。
なんてきれいな、透き通った海なんでしょう。
戻ってきたら、対話しながら何を見つけたかのシェアリングをし、一人で考える⇨3人グループになって詩をつくります。
もちろん、詩を一人苦しみながら生み出すのもいいですが、こうして対話しながら作ることで、思わぬ化学反応でことばが生まれてくる楽しさが生まれます。
実際、耳をすませると、あちこちから「いいじゃん〜!」「その言葉、いいね」「すばらしい」という声や、できあがった詩に「ものすごく傑作が生まれたんじゃない?!」と絶賛する声が聞こえてきました。
対話することは、共に意味をつくりだす創造行為です。
21世紀を豊かに生きるために必要なこの態度を、わたしは共催の山口さんから教わり続けています。「詩を読む・つくる」という閉じた行為を対話で開くことで、新たな地平線がひろがります。詩のワークショップでいちばん大事にしたいのは、「対話」と「肯定」だということを再認識しました。
できた詩は、発表をふくめてとんでもなくすばらしかったです!👏
できあがった詩
グループ①Are You Ready?
詩人の気持ちで散歩したら、つぼみや草花が「準備」をしているように感じたという声から、「春って、楽屋みたいだね!」という話になったそう。
「なんだろう?」と思わせる秀逸なタイトルも、対話から生まれました。
グループ②おはようの合図
「ぴちゃぱちゃ」など豊かなオノマトペと、「寝ぐせをつけたまま」などの表現がなんともたのしい詩!春は、目がさめてどんどん進んでいくような独特のグルーヴ感がありますね。
グループ③春の列車
春は、麗らかでキラキラなだけではありません。「春に対して、ネガティブな感情をもっている」という対話から、詩が生まれました!うんうん、春の焦燥感や不安、よくわかるなぁ〜。「ぐはー」が絶妙でナイス。
グループ④ぼくのはる
3歳までは海がこわかったSくん、「4歳は、海、平気!」と教えてくれました。そこから生まれた詩。おとなが4歳の気持ちにがんばって近づく制作過程もおもしろかったです。
《おまけ》誰でも詩を作れる!詩のフォーマット
ちなみに、①〜④の詩はひとつの同じフォーマットでできているんです。
そうとも信じがたいこの多様性、すばらしい…!
みなさんも、ぜひ作ってみてください!
《タイトル》
「(つい、もれでる声)」もう春だよ
見つけたもの、感じたもの
見つけたもの、感じたもの
見つけたもの、感じたもの「(つい、もれでる声)」もう春だよ
見つけたもの、感じたもの
見つけたもの、感じたもの
見つけたもの、感じたもの春は◯◯のようだ/春って◯◯だ
いただいたご感想
・ふだんはロジカルにものを考えがちだけど、人間らしさを200%取り戻せた。ただただ幸福な時間だった(30代・会社員)
・ことばにすることの大切さを認識できた(10代・大学生)
・楽しかった!(4歳)
・眠っていた潜在能力的なものが研ぎ澄まされた感じになりました(20代・大学生)
・久しぶりの感覚をたくさん味わい、人間性をとりもどせた(大学生)
・天才にしかできないことだと思っていた詩のおもしろさ、ことばにするおもしろさに気づけた。いっしょにやることで生み出すことも楽しかったし、見える世界が変わってくるのを感じた(30代・まちづくり)
・自分が感じたままでいい、人と違ってもいいんだ(50代)
参加者のみなさま、山口さん、ありがとうございました!
夏には、ぷかぷか海に浮かびながら詩をつくるなんてどうかな。
次回予告もお楽しみに◎