詩のソムリエ、はじめての大仕事。
2020年春、会社を辞めた。
まわりは転職や起業するなか、わたしは「詩のソムリエ」になった。
華麗とはいえないナゾの転身をして、半年。
はじめての大きなお仕事をいただきました!多謝!!
岡山県文化連盟さんの芸術交流実験室で、「詩であそぼう ことばを味わおう」というワークショップ&トークをさせていただくことになったのです。
ヨノナカ実習室のスミカオリさん、表現教育を中学で実践されてきた北川久美子先生とご一緒させていただきました。
↑かわいい告知、うれしかったな。
ソーシャルパリピ(※社会に迷惑かけない程度にアッパーな人間)だけど根暗なため「誰も来なかったらどうしよう…」とクヨクヨしていたんだけど、なんと定員オーバーの20名が来てくださいました。うれしすぎる。緊張して早く着きすぎて、しまむらで靴下買った(290円だった)。
見上げれば、台風一過で晴れ渡った空。
詩であそび、ことばをあじわう土曜日
当日。10代から70代まで、実に多彩な方々が来てくださいました。
まずは「詩はわからなくていい」「景色や香りをたのしむ」など、楽しむコツをお伝えした上で、実験室スタート!
最初に「ぴたぴた たぷ」という詩を鑑賞。
「どんな景色が浮かびますか?」とたずねたところ、
子育て経験のある方から「小さい子どもがいたずらしている」「胎児」
大学生から「おふろ」「スカートをはいた小人が冒険している」
70代から「へび」…さまざまなイメージが湧き上がりました。
まさに十人十色。(みなさんはどんな風景が浮かびましたか?)
それぞれのイメージで朗読してもらうと、同じ詩でもこうも読み方がちがうのか!と発見。「たぷ」一つとっても、抑揚をきかせる、小さくつぶやく…いろんな表現があります。それぞれの視点と工夫が楽しい◎
だんだんエンジンがかかってきたところで、「新米」で連想を広げて俳句をつくりました。
佐藤文香さん考案「打越マトリクス」という遊びをしながら、どんどん連想。多世代のイメージが、一気に広がる、つながる。
グループで助け合って推敲するシーンも。
最後はみんなで詩を作りました。テーマは「とるにたらないもの」。
グループごとに「とるにたらないもの」をつなぎあわせると、詩のスタンザ(連)ができあがっちゃう、という作りかたです。
ランチの60円味噌汁、ゼリーのふたをはがしたときにあふれる果汁、新しいスニーカーの靴紐…などなど、各グループで「他の人にとってはとるにたらないが、自分にとってはとるにたるもの」をシェア。みんな楽しそうにうなずきあっています。
全員で円座し、それぞれの「とるにたらないもの」を朗読していきます。
できあがった詩はこちら!!
「とるにたらないもの」
とるにたらないもの
マンションの影がのびている
オレンジの金木犀を見つけた
私は昨日なかった雑草をぬく
淹れたてのコーヒーのにおい
まあたらしいスニーカーに通す靴紐とるにたらないもの
ランチで60円の味噌汁をのむ時間
スーパーで美味しそうなポテトチップスを見つけた
子どもが寝た後のAmazon prime
毎日見上げる月の満ち欠けとるにたらないもの
仕事終わりの夕日の色
バック駐車が一発で決まったとき
ドアのチェーンをかけたとき
レコードに針を落とす音
撫でる猫のやわらかさとるにたらないもの
赤い光の通知オフ
家の中で聞く雨の音
雨上がりの生ぬるさ、ツンとする匂い
キッチンの窓に貼りつくヤモリのお腹の白さが好き
冷蔵庫の野菜室にある果物を確認してつくる野菜ジュースとるにたらないもの
それは小さいけれどかけがえのない日常
すてき、です。とっても。
一人ひとりの、小さなかけがえのない日常のワンシーンが思い浮かび、耳を澄まして聞いていると、胸がじんわりと温くなってくる。
ちょっと泣きそうになりました。
オフラインイベントは久しぶりでしたが、やっぱりいいですね。コロナでなかなか会えなかったけど、みんな、それぞれの日常を生きている。その、小さいけれどたしかな勁(つよ)さ。しずかだけどたしかな輝き。
“詩は、小さくうなずくこと”
今回、参加者さんからの声のなかで特にぐっと来たのが「詩はちいさくうなずくこと」。
たくさんの人が来てくださって、それぞれの「とるにたらないもの」や詩の解釈はちがう。
それでも。
経験したことないけど、わかる気がする。
自分はそうは思わないけど、でもおもしろいと思う。
そんなシーンがたくさんありました。
大きくうなずく(大賛成、完全同意)ではないけど、居合わせた人たちで、「わかる気がする」「あなたの感性、おもしろいね」そんなふうに、小さくうなずく。自分の感性に「だめだこりゃ」と笑いつつ、「でもおもしろいかも」と小さくうなずく。
それが詩で場をつくる意味なのかも。うん、しっくり来ます。
「ここにいるみんなのことが好きになった」という感想もいただきました。
ちがう、だから、嫌い、ではない。
ちがう、けれど、好き。小さくうなずきあう。
そんな場がいい。
戦争から70年かけて「多様性」の時代がきている
20代女子からは、最後にこんな感想が。
“いろんな人の感じ方が固有で、でも納得できて、自分じゃないのに自分みたいだった”
「それぞれの価値観がちがっておもしろかった」という感想は他の方からもいただきました。そして最年長、70代の参加者さんがやさしい笑顔を浮かべながら話してくださったのは、
“自分が若い頃は、いまの若い人たちみたいな多様性はなかった。多様性を楽しんで受け入れているところがすばらしいと思った”
うれしい、し、重い感想だなぁと受け止めました。
一億総動員、からの一億総懺悔、そして高度経済成長と、ずっと「右向け右」「没個性」で70年来た日本。その日本と歩んできた参加者さん。
ああ、70年たって、やっと、ここからスタートなんだなぁ。
わたしがいつもテーマにしているのは「自己肯定感をアゲアゲにする」ことと「ちがいを楽しむ(多様性)」こと。
なんだか、スタートを言い渡されたような気すらしました。
がんばろまじで。
結局、人が好きでやっている
今回、ワークショップだけではなくトークで講師それぞれの詩の実践についても話しました。教育現場で詩をつかって生徒と向き合ってきた北川久美子先生がおっしゃっていたのは、
「わたしは詩人を育てたいのではない、生徒がかわいくてかわいくて表現教育をやっているんだ」
長年、中学校で作文や詩の指導をされているなかで、悩みを抱える生徒たちがすこしずつ変わってきたそうです。
その取り組みはほんとうに尊いなぁ・・・と心打たれつつ、「わたしはどうなんだろう」と思ったところ、けっきょくわたしも「詩のソムリエ」をしている気持ちには、「人が好き」ということがあるんじゃないかな、と気づきました。
・一生懸命生きて詩を残した詩人その人のことが愛おしい。
・いま、一生懸命生きている人たちに、詩を日常のなかで支えや癒やしにしてほしい。
・詩を通して、それぞれちがう感性を祝福し合いたい。
そんなところでしょうか。
やっぱり詩がすきだし、人がすきだし、はじめて会った人同士が小さくうなずきあったり心を通わせたりしている場面を見るのがすきです。
きっと他の場所では心を通わせないままだった人たちも、詩のことばを介せば、ふわっと通じあえるような気がするのです。
ご一緒してくださった講師・参加者のみなさま、
そして新型コロナウイルスの懸念もあるなかでこの場をつくってくださった岡山県文化連盟のみなさま。瀬戸内図書館のみなさま。
ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございました。
詩のワークショップのご依頼・ご相談はコメント欄もしくはTwitter(詩のソムリエ 渡邊めぐみ@amarlka)宛DMにお願いします。