夕星は、
かがやく朝が八方に散らしたものを
みなもとへ連れかへす。
羊をかへし、
山羊をかへし、
幼な子をまた 母の手に
連れかへす。
(呉 茂一訳)
作者
サッポー
紀元前7〜6世紀ごろ レスボス島生まれ。生前から詩人として有名であり、レスボス島に少女たちを集め、詩や舞踏を教えた。美しい才媛サッポーは少女たちのあこがれの的だったらしい。「夕星は…」の歌は、集った少女のうちの一人に送った祝婚歌といわれる。
詩のソムリエより
夜眠るまえ、古びた大きな『世界名詩選』をぱらぱらめくる。神を讃える勇壮な紀元前ギリシャ詩にまじって、この歌はひっそりと豊かに腕を広げていた。詩の女神(ムーサ)こと、サッポーの詩だ。朝が八方に散らす。夕が連れ返す。その対比とスケールがみごとだ。 穏やかに、寄せてはかえす、あたたかで懐かしい日々。 心はいつも、どこかへ帰りたがる。いつまでも古びない詩だ。